2022年4月20日(水)に「『京大発イノベーションを探る』成長するエイジングケア市場への挑戦 ~『死の谷』を乗り越えた研究開発型ベンチャーとその支援者~」がオンラインで開催されました。今回は、独創的コンセプトでエイジングケア市場に挑戦する研究開発型ベンチャーの代表と、そのベンチャーが入居する大学施設のインキュベーションマネージャーから、事業化成功のポイントと成長市場での生き残り戦略について詳しくお伺いいたしました。本レポートでは、当日の様子の一部をご紹介させていただきます。
目次
・株式会社ナールスコーポレーション 代表取締役 川崎元士氏 プレゼンテーション
・京都大学大学院医学研究科 医学領域産学連携推進機構 特定講師 山口太郎氏 プレゼンテーション
・トークセッション
・最後に
株式会社ナールスコーポレーション 代表取締役 川崎元士氏 プレゼンテーション
川崎氏:弊社の化粧品原料である化合物、「ナールスゲン」は、2005年京都大学の平竹先生がγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)という酵素の 阻害剤として合成されました。当時どのように製品開発していくかが見えていない中、2009年大阪市立大学の小島先生との出会いを通じて、この物質が人の皮膚の線維芽細胞に働きかけてコラーゲンやエラスチンなどの産生能を亢進し、シワを伸ばす化粧品原料になるポテンシャルがあるということがわかり、化粧品原料開発への道のりが始まりました。
社名でもある「ナールス」は、生命科学に基づいて快適さと健康を目指す日本の会社という意味で、「Nippon Amenity Health (based on) Life Science」の頭文字から来ています。
会社設立当初、苦しい時期が続く中で京都大学、京都市、京都府、国からの多大なご支援に加えて、トーア紡コーポレーション様には5年間に亘り無償で研究資金をご提供していただきました。
また、ナールスゲン合成から17年、2012年の会社設立から10年を経た昨年(2021年)の秋には、会長松本が弊社設立などの功績が認められ勲章「旭日単光章」をいただくことができ、弊社にとっても大きな名誉となりました。
今後も「ダーウィンの海」を渡り切るため、引き続き研究開発を重視して事業を進めていきたいと思っております。

※当日は、「ナールスゲン」の作用、化粧品事業展開の経緯やビジネス展開等について、詳しくお話いただきました。
京都大学大学院医学研究科 医学領域産学連携推進機構 特定講師 山口太郎氏 プレゼンテーション
山口氏:「ナールスゲン」は、美容という点が注目されがちですが、単なる美容という観点からフィジカルをケアしていくだけではなく、体が元気になれば精神的にも健やかになるというメンタルも含めた両方の面から健康寿命の延伸に貢献できる、素晴らしい物質ではないかと個人的には思っています。
そういった「ナールスゲン」の機能性・安全性だけではなく、研究開発経験豊富な経営陣についても、ナールスコーポレーションの強みであると私は感じています。松本会長や川崎社長をはじめとしてナールスコーポレーションの皆様は大手製薬企業の研究開発の第一線でご活躍されていた方々が揃っており、ベンチャー企業ではありながら、11もの研究機関との共同研究開発等を実現できている、そして全国の百貨店で「ナールスゲン」入りの化粧品を販売できているポイントかと思っています。

※当日は、エイジングについての背景や、成長する医療ヘルスケアベンチャーの成功条件、インキュベーターの必要性等お話いただきました。
トークセッション
後半のトークセッションでは、今回のイベントのテーマでもある「魔の川」・「死の谷」・「ダーウィンの海」について、お二人のご経験を交えながら詳しくお話をお伺いいたしました。
株式会社ナールスコーポレーション 代表取締役 川崎元士氏 (中央)
京都大学大学院医学研究科 医学領域産学連携推進機構 特定講師 山口太郎氏  (左)
Q.研究ステージから製品開発ステージへと向かう中での課題や、それをどう乗り越えられたのかについてお聞かせください。
川崎氏:当初、「ナールスゲン」は医薬品や農薬としての製品開発を目指したのですが、なかなか良い結果が得られませんでした。その中で大阪市立大学の小島先生との共同研究を経て化粧品原料への道が切り開かれました。その上で、研究開発には多額の資金が必要ですが、国の競争的資金であるA-STEPで1億2,000万円強獲得でき、様々な大学や理化学研究所との共同研究を通して、様々な有用なデータを積み重ねることができた、という経緯がございました。
また、弊社メンバーは元々製薬会社で医薬品の研究開発には携わっていましたが、化粧品に関しては全くの素人でした。様々なつながりの中で大手化粧品会社の OB 7名の方にご協力やサポートをしていただき、化粧品の安全性、有効性、企画やコンセプト開発等についてもいろいろとご助言をいただきました。このように、いわゆる研究開発の「魔の川」「死の谷」については多くの人達からのサポートを受け、乗り越えることができたと思っております。


Q.今までのご経験の中から「魔の川」を乗り越えるために必要だと考えられているような条件はどういったものだと感じていらっしゃいますか。
山口先生:いろいろな要素があり難しい点かと思いますが、大事なポイント「エビデンス」としては、その技術を裏付けるきちんとしたPOCの用意が初めに必要になるかと思います。
次の段階として、川崎社長もおっしゃっておりましたが、製品開発の道筋が見えた後、きちんと顧客のニーズを把握することが必要になってくるかと思います。
製品を開発するということは、当然購入していただく顧客がいるわけで、その方々は何かしらの課題ニーズを持ってその商品を買われるかと思います。ニーズを把握して研究開発を進めていくことが「魔の川」を乗り越えるために必要だと思っています。
最後に
当日は、川崎社長からナールスコーポレーションが歩んできた道のりにそってお話いただきながら、考えや感じていらっしゃること、今後の展望についても踏み込んでお話いただきました。また、山口先生からは、インキュベーターとしての視点からベンチャー企業の成功条件と感じられていること、インキュベーション施設のメリット等詳しくご説明いただきました。

<「ナールスコーポレーション」のご紹介>
会社名:株式会社ナールスコーポレーション
Nippon Amenity Health (based on) Life Science  ➡NAHLS CORPORATION
株式会社ナールスコーポレーションはエイジングケアをサポートする新成分ナールスゲン(京都大学と大阪市立大学との共同研究の成果をもとに世界で初めて開発された)の製造販売を目的として設立された、大学発研究開発型ベンチャー企業です。
研究成果を社会に還元すべく、研究を基盤に、新たな価値を創造し、人々の健康で快適な生活に貢献します。
https://www.nahls.jp/

<「イノベーションハブ京都」のご紹介>
施設名:イノベーションハブ京都
運営者:京都大学大学院 医学研究科 「医学領域」産学連携推進機構(KUMBL)
イノベーションハブ京都は、アカデミア研究者、ベンチャー企業や大企業、投資家等、異分野のスペシャリストが集い、ネットワーク構築と情報交換を通じて、バイオメディカル分野のベンチャー育成とシーズの事業化を目指す、京都大学内のオープンイノベーション施設です。 これまで京都大学医学研究科が注力してきた創薬研究開発に加えて、医療機器、ヘルスケアアプリ等の開発を目指す研究者やベンチャーが、施設に集まる大企業、投資家等と交流し、成長することができます。
WEBページ:https://www.ihk.med.kyoto-u.ac.jp/
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