2022年5月23日(月)に「『京大発イノベーションを探る』急成長スタートアップによる食卓のイノベーション ~15倍速の品種改良×資金調達で挑む社会課題解決~」がオンラインで開催されました。今回は、ご登壇のお二人から、リージョナルフィッシュ株式会社の研究成果や事業内容、今後の展望について、そしてトークセッションでは資金調達の秘訣などについても、お話を詳しくお伺いいたしました。こちらのレポートでは、当日のお話の一部をご紹介させていただきます。
目次
・リージョナルフィッシュ株式会社 プレゼンテーション
・トークセッション
リージョナルフィッシュ株式会社 プレゼンテーション
木下氏:みなさんは、天然の真鯛を食べるか、養殖の真鯛を食べるか、と聞かれたら、どちらを選びますか? おそらく多くの方は「天然の真鯛を食べたい」と答えるのではないでしょうか。
農産物や畜産物に関しては、自然界で起きる突然変異を利用し良質のものだけを選び、それらを掛け合わせて品種改良を行ってきました。しかし水産物に関しては、「完全養殖、すなわち次の世代の子供を創ること」が難しく、農畜産物ほど頻繁に品種改良は行われていませんでした。
私たちリージョナルフィッシュは、上記のように、今まで品種改良が進められてこなかった水産物においても、ゲノム編集を使用した品種改良(育種)を始めました。
木下氏:ゲノム編集と従来の品種改良法を比べたものがこちらのスライドとなります。左側の図をご覧ください。ゲノム編集の方法を使うと、はさみで描かれているように、狙ったところをきちんと切って、その場所のゲノムを改変することができます。右側の従来法は、薬剤や放射線などによりランダムにゲノムを切って改編するやり方ですが、実はどこを切ったのか、何ヵ所切れているのかなどは確認できません。
また、ゲノム編集は、その編集方法によってSDN-1、2、3とカテゴリが分かれています。細胞外で加工された塩基を組み込むゲノム編集をSDN-2、外来遺伝子を入れ込むゲノム編集である「遺伝子組み換え」はSDN-3に該当します。私たちが行っているゲノム編集は、外来遺伝子を注入しないSDN-1のやり方で、自然界で発生する突然変異で得られたものと見分けがつかないものです。どうしても「ゲノム編集」というと1、2、3を混同される方も多いため、私たちはわかりやすいように、行っているゲノム編集に「ナノジーン育種」という名前をつけました。

※当日はナノジーン育種について、品種としてのメリット等、詳しくご説明いただきました。

梅川氏:リージョナルフィッシュという会社名は「地魚」という言葉から取っています。今後、水産物の品種改良が進んでいった場合、たとえばイチゴでいう栃木の「とちおとめ」という品種と同じように、地魚が品種になっていくのではないかと考え、地域ブランディングへの想いも込めてこの名前をつけました。
現在創業から3年が経ち、社員28名、博士号15名という研究開発の体制を構築しています。
京都大学のゲノム編集技術と近畿大学の完全養殖技術(卵から親魚まで育て、また卵を産ませるという養殖技術)の二つを組み合わせることで、世界でも珍しい魚・水産物のゲノム編集技術による品種改良ができるようになりました。
梅川氏:世界的に人口が増え、かつ人々が豊かになり、一人当たりのタンパク質の消費量が増えている今、世界のタンパク質不足を救いたい、というのが私たちの叶えたい思いです。
たとえば、代表的なタンパク源である牛肉を1㎏作るためには、8~10㎏の飼料が必要だと言われています。この飼料を育てるための耕作面積にも限りがある中、より効率的にタンパク質を供給することが出来るようになれば、ということで着目されるのが水産物です。世界の水産物生産量が30年間で倍増をしている一方、日本では1/3となり、水産技術は海外に追いつかれているのが現状です。ゲノム編集技術やスマート養殖技術で高付加価値の品種を作ることができれば、世界の水産市場でもまだまだ日本も戦っていけるのではないか、と思っています。

※当日は、様々な企業との協業のお話や、今後の展望について、お話いただきました。

トークセッション
イベント後半は、トークセッションとして、資金調達の秘訣や、事業を進めていく中での課題点等をお伺いいたしました。また、オンラインでご視聴のみなさまから多くのご質問をいただき、木下先生、梅川社長にご回答いただきました。
京都大学大学院 農学研究科 応用生物科学専攻 准教授、リージョナルフィッシュ株式会社 CTO 木下 政人 氏(左)
リージョナルフィッシュ株式会社 CEO 梅川 忠典 氏(右)
Q.研究ステージと開発ステージでの違い、戸惑われた点についてお聞かせください。
木下氏:大学では、好きな研究をすることはできますが、資金面や学生への教育を行う責任があるため、大きなプロジェクトを動かすことは容易ではありません。その点、ベンチャー企業の場合、研究のプロである優秀な人材が集まってくるため、方向性さえ決まればどんどんとプロジェクトが進んでいくなと感じています。
かたや、困った点としては、ベンチャー企業だと研究機材が十分にはない、という点でした。



Q.ベンチャー企業が事業進めていくなかで、資金調達に苦戦することが多いと思いますが、資金調達の秘訣をお聞かせください。
梅川氏:自分たちがどういったEXITをしたいのかという、おしりからデザインをしていくことが大事だと思っています。思い描くゴールから逆算して、目標を成し遂げるためには何の要件が必要かをしっかりと意識し、今現在、自分がやらなければならない課題をおさえた納得感のある計画を投資家に伝えていくことが必要だと思っています。
また、ベンチャー企業にとって資金調達の経験は多くても3、4回が限界かと思いますが、投資家側は比較にならないくらい数多くの経験を持っています。だからこそ、ベンチャー企業側としては、複数の投資家を比較検討し、自分にとってベストな投資家を見極めることが大事だと思っています。
最後に
当日はお二人の今までのご経験も踏まえたお話を詳しくお伺いすることができました。また、今後の水産業への未来も感じることができました。
イベントの最後には「22世紀鯛」の昆布締めも試食させていただきました。肉厚なのにふっくらとした食感で、すごく美味しかったです。そんな「22世紀鯛」の昆布締めなど、リージョナルフィッシュ株式会社の商品は下記オンラインサイトにてご購入いただけます。ご興味のある方は是非お買い求めくださいませ!
https://regionalfish.online/

<「リージョナルフィッシュ」のご紹介>
会社名:リージョナルフィッシュ株式会社
“タンパク質クライシス”を始めとする食料問題や衰退する日本の水産業の課題解決に残された時間は多くありません。その突破口が我々のコア技術「ゲノム編集」。
私たちはこのゲノム編集技術と、IoTなどを駆使した養殖環境によって、日本の養殖業を高付加価値化し、サステイナブルな成長産業に変えます。
そして日本の漁業が世界の課題であるタンパク質クライシスを“早く”解決する。そんな未来を創るのが私たちの使命です。
https://regional.fish/


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